声紋分析に適した電話録音方法 2006/4/24改
音響・声紋照合の際、必要な録音情報が取り出せなくては正確な分析が不可能となる。
では、どのように分析に適した録音をすればよいか。ここでは、電話の会話録音方法を紹介する。
注)
ここ最近、ICレコーダーによる録音物の分析・音声修復が多くあるが、
そのどれもが情報量の少なさ・音質の悪さなどから修復することが困難である。
ICレコーダーにて録音する場合は、注意が必要である。
留守番電話録音テープを使用しない
一般的に、証拠テープとして提出・分析される多くのテープが、”マイクロ・カセット・テープ”という小型のカセットテープである。
これは、主に会話録音用に開発されており、そのせいか記録できる帯域がコンパクト・カセット・テープより狭いために正確な分析
が困難となる。主な原因として以下に記載する。
1.テープ走行速度が遅い・・・・一般的に録音・再生のテープ速度が遅い場合、高域(高い音)の記録が困難である。高音域に
特徴のある音の場合は、分析する事が非常に困難である。(テープ速度が速い場合においても、
メンテナンス(クリーニング・調整)が行われていない機器の場合は困難な場合がある)
レコーダー | モード | テープ速度 | 一般的な周波数特性(記録帯域) | 備考 |
マイクロ・カセット・レコーダー | 長時間 | 1.2cm/秒 | 400〜3000Hz | 一般的なレコーダー |
マイクロ・カセット・レコーダー | 標準 | 2.4cm/秒 | 400〜4000Hz | 一般的なレコーダー |
コンパクト・カセット・レコーダー | 4.8cm/秒 | 15〜21000Hz | オーディオ用高級レコーダー | |
オープン・リール・レコーダー | 9.6cm/秒 | 30〜24000Hz | オーディオ用高級レコーダー | |
オープン・リール・レコーダー | 19cm/秒 | 30〜40000Hz | オーディオ用高級レコーダー | |
DAT | 44.1KHz | 20〜21000Hz | 業務用ディジタルレコーダー | |
ICレコーダー(パナソニック) | 高音質 | 280〜5200Hz | 一般的なICレコーダー | |
ICレコーダー(パナソニック) | 長時間 | 270〜3400Hz | 一般的なICレコーダー | |
ICレコーダー(ソニー) | ステレオ | 60〜13500Hz | 一般的なICレコーダー | |
ICレコーダー(ソニー) | 高音質 | 60〜7000Hz | 一般的なICレコーダー | |
ICレコーダー(ソニー) | 長時間 | 60〜3500Hz | 一般的なICレコーダー |
たとえば、”声紋”の分析の場合、通常、上限が5000Hzで分析されることが非常に多い。マイクロカセットでは、その帯域まで正確な記録が
困難である為に、分析には不的確である。
2.録音機の剛性・精度が悪い・・・・一般的にマイクロ・カセット・テープ・レコーダーは小型化するあまり、ボディーの剛性・精度等
(強度)が不足している場合がある。それ故にテープ走行が不安定になり、記録・再生ヘッド上
でテープが蛇行し、音声に”揺れ”を生じる。その結果、分析結果に大きな差を生ずる場合がある。
特に留守番電話内蔵のレコーダーは、会話内容が聞き取れれば良いので、録音性能は専用機
には遠く及ばない。
3.保守点検が行われない・・・・・正常な状態で録音再生を行うには、テープの接触する箇所を常に正常に保つ必要があるが、一般
家庭でのカセットデッキを例に取れば分かるように、クリーニングなどはほとんど行われずに使用さ
れつづけている。”記録・再生ヘッド”に汚れが付着すれば、録音・再生が不安定になり正確に記録
ができなくなる。さらに、テープを安定した速度で走行させる機構である”キャプスタン・シャフト”
”ピンチ・ローラー”などにも汚れは付着するが、これはヘッドの汚れとは別の要素で正常な録音・再
生を妨げる要因となる。
近年の留守番応答機能のついた電話機には、マイクロカセットテープレコーダーを用いた物は少なく、長時間録音が可能なICレコーダーを
内蔵した物が多い。音質は、マイクロカセットテープレコーダーより良いと思われがちだが、録音できる音声の帯域(低い音から高い音まで)
が狭く、なおかつ音声情報を圧縮して記録するために、分析は困難である場合が多い。
この場合、留守中の受電はいたしかたないが、在宅中に受電する場合は、テレフォンピックアップ等のマイクを使用して録音を行うと良い。
録音
以上に示したことは、一般に会話録音で使用される機器の説明の一部であるが、すぐに高性能なレコーダーをセットできない場合、どのようにすれば
一般のレコーダーで、分析に適した録音を行うことができるのか。以下に手順を記す。
@ 電話会話録音用のアダプターを購入する
これは、家電量販店などで注文すれば入手可能で、”モジュラージャック”と電話機の間に接続するタイプと、電話機本体と受話器の間に接続
するタイプがある。
A レコーダーを用意する
@のアダプターの出力は、”モノラル・ミニ・ジャック(3.5mm)”の端子で出力されている機種が多く、レコーダー側がその入力端子に対応している
必要がある。対応していない場合は変換アダプターなどで接続する。
レコーダーは、できるだけ高音質のものを用意する。急な場合などは手持ちのコンパクト・カセット・テープでもかまわない。時間に余裕がある場合は、
家電オーディオショップなどでDAT(デジタルオーディオテープ)レコーダーなどを用意する。およそ6万円で入手可能。
B 録音レベル調整
電話録音用アダプターを接続し、実際の会話を録音して録音レベルを調整する。このとき、比較的大きな声でチェックを行うことが肝心である。
大きな声で話したときに、双方の会話が歪みなく録音できれば良いのだが、小さすぎるとノイズの比率が増えるため、分析が困難な場合がある。
声が歪まない程度のところが最適位置とする。録音レベルを自動的に調整する”オート・ゲイン・コントロール”などの機能は使用しない。これを用いると
ひずみなく録音できる可能性もあるが、分析には適さない場合がある。
激しく歪んでしまっている音声は、声紋グラフが不鮮明になってしまい、分析には適さない場合が多い。
C やむなくマイクロ・カセット・レコーダーで録音する場合
多くのレコーダーには”長時間モード”で録音できるモードがある。これはテープ速度が毎秒1.2cmという非常に遅いモードであるため、鑑定には
全く適さない。録音には標準の毎秒2.4cmで必ず録音する。
D 相手から受電する場合、受話器を取る前から録音スタート。録音後、相手が受話器を置いた後に発する”プーップーッ”という音を必ず入れておく。
こちらから架電する場合、”ツー”という音から番号を押す音(プッシュダイヤル音)を入れておく。架電後は上記と同じ。
どちらの場合も、収録後にNTT 117時報を録音することで、録音終了時刻を記録することができる。ここで重要なことは、テープを止めないということです。
一度テープを止めて時報を録音した場合、停止痕が発生するために記録時刻は信憑性を失います。
・マイクの位置について
元来、会話録音用のレコーダー(マイクロカセット・ICレコーダー等)に内蔵されているマイクは、対象となる音源(対象人物の口)に、できるだけ近いところで(遮蔽物を挟まない50cm程度)録音するように設計されている。しかし、長距離(2メートル程度)離れると、音声は記録されてはいるが、部屋の響きを拾いすぎる・雑音が多い・明瞭度が異常に低い等で、分析・修復が困難である。
外部マイクを接続できるようなレコーダーの場合、必ず使用すること。対象にマイクを近づければクリアーな音質で録音できる可能性が高い。
番外編
・高速デジタル回線が開通している場合(ADSL SDSL等)
ADSLなど、高速デジタル回線が開通している場合、その多くの回線上にノイズ状の信号が乗っています。これは本来”スプリッター”と呼ばれるフィルターを
通過することでカットされるべき信号ですが、必ず回線上に漏れるので会話録音中にノイズが乗ります。この信号は、通信モデムが正常な動作をしていると
きに発する交信信号です。しかし、スプリッターを通過した後の回線にも漏れ出てくるため、会話にノイズが乗ったような録音になってしまいます。この信号は、
DSLが開通している側の電話機でしか聞こえないのですが、録音・鑑定する際にはこの上なく邪魔な信号です。
そこで、この信号を止めるには、どうすればよいか? 実は、モデムを切り離すと止まります。モデム接続中は、常時、NTT局と交信しているため、双方から
信号が送られますが、モデム側を切り離せば、局からの信号も止まり、ほぼDSL開通前のようなノイズのない状態へ戻せます。
文章上では”切り離す”このような書き方になりますが、要するにスプリッター側の”モデム”と書かれたモジュラージャックから電話線を抜くだけです。ネット接
続時に接続すれば何の問題もなく動きます。高速回線が開通している場合は要チェックです。